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トゥルーマン・ショーと快適な牢獄

あまり映画監督の名前をチェックしていなかったので、
意識していなかったのだけど、私はアンドリュー・ニコルの
作品が好きで何本も観ていたようだ。
直近だと、ドローン・オブ・ウォー
『TIME』『シモーヌ』『ターミナル』、一番記憶に残って
いたのは遺伝子で人生が決められる近未来を描いたガタカ
これはたしか20代のとき部屋で一人で膝を抱えて観ていて、
ラストシーンで超号泣したんだよね。
そして、今回、17、8年ぶりぐらいに改めて観てみたのが
トゥルーマン・ショー

 


資料として、別の目的で観たのだけど、
まず、20年前の作品とはまったく思えず、驚いてしまった。
いろんな意味で、ぞっとするほど、2018年現在の人間の危うさが
表現されている。


ジム・キャリー扮する主人公のトゥルーマンは、保険会社に勤め、
看護師の妻を持ち、のどかな街に住む平凡なサラリーマン。
しかし、実はその町は世界最大の超巨大スタジオの中に存在しており、
トゥルーマン以外は全員が役者。
太陽も月も星も青空も天候も、親友さえもすべてがニセモノで、
ありとあらゆるところに5000台のカメラが仕掛けられており、
トゥルーマンの日常は常に完全に監視され、現実世界のテレビ番組
で生放送されている。

むかし劇場で観た時は、私自身が限りなくトゥルーマンに近い人間
だったのでまったく気がついていなかったけど、
いま見ると、もちろん二度目だからということもあるけれども、

最初のシーンから、街のあちこちに黒い監視カメラが設置されている

のが目に入ってくる。

これがいまや、現実の私の日常でもよくある風景なのだから、怖い。

トゥルーマンは、自分のいる世界が偽りだと確信するにいたり、
監視カメラや身の回りの人間を欺いて
ヨットで大海へと漕ぎ出す。
ところが、
行き着いた先は、青空の書き割り…。

トゥルーマンの一生を監視し、ドラマを作って視聴者を喜ばせてきた
番組の総監督はこんな
ことを言う。


「番組だと気がついても、彼は決して外の世界には出ないだろう。
人間は、一度慣れてしまった安全な世界からは怖くて出られなくなる
ものだ。たとえ牢獄でもね」



書き割りの壁にスタジオの外へ出る通用口を見つけたトゥルーマンに、
総監督は、神の視点たる管制室
から語りかける。


 

「外の世界には、私がきみのために創った世界以上の真実はない。
同じ嘘。同じ欺瞞。しかし、私の世界にいれば、一切の危険がない。
私はきみ以上に、きみ自身のことをよく知っている」

 


しかし、トゥルーマンは強い口調で言い返すのだ。

"You never had a camera in my head!"

そうして、スタジオから去っていく。
快適で安全に暮らせるが、監視された虚構の牢獄よりも、
自由があり、危険な現実の世界を選んだのだ。

すごい。トゥルーマンは、ルソーだった!


総監督の言う「人間は、一度慣れてしまった安全な世界からは怖くて

出られなくなるものだ。たとえ牢獄でもね」というセリフは、

完全なエゴで権力を掌握した人間が、ルソーの『社会契約論』の一節を

悪用している姿。

自分の欲望を、偉人の思想を曲解することで包み隠そうとする欺瞞だ。

トゥルーマンは、その欺瞞が生み出す奴隷の鉄鎖を自覚し、みずから

危険な自由の道を選んだ。

 

現実の私たちにはそれができるだろうか?

 


この映画はもちろん共謀罪の話にも通ずるし、
メディアの虚構性に焦点を当てるなら、私企業に支配され、
情報操作されつつあるネットの世界にも通ずると思う。

そしてなにより、憲法について議論されているいま、
書き割りの壁に覆われた、快適で安全のように感じる主権なき牢獄の世界

から抜け出さなければならないと思う。
そろそろ、トゥルーマンのように牢獄から出よう。

 

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