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相棒

人って急に死ぬものね。

 

はまの君なんか、いまごろどうしてんのかなあ。

相棒だったんだけどね。

いっつも古本を抱えてやってきて、「これ、もくれんが読む本やろ」って土産のように手渡す男で。

最初は、澁澤龍彦だのセリーヌだの、あんまり私が読まないタイプの本だったんだけど、ある時、「金子光晴にはまってんだよね」と話したら、「俺も好きや〜」と言って、『マレー蘭印紀行』かなにかの感想をざーっと話して、それからまもなく中央公論社の金子光晴全集の中から、なぜか二巻と十巻だけを持ってきてくれた。

たぶん、全巻揃ってないから、いらなかったんだろな。

 

 

まだ大切に持ってますよ。

 

あの時は、たしか私がマルクス・ブラザーズにはまって、DVD買いまくってて。

で、メールで「マルクスブラザーズの本が出てきたから、これ、お前にやるわ」といつもの調子の連絡がきて。

そして、数時間後に死ぬという。

いつものように寝て、そして、寝ている間に心臓が止まったんだってさ。


「おまえは、ハイリスク・ノータリンやな。まったく素晴らしいわ」いつも私の向こう見ずなところをやたらと褒めたたえてきた。「そこまで何も考えずに無鉄砲にやれるやつは貴重やぞ。もっとやれ」と、上げてるのか落としてるのかよくわからないけど、私が喜ぶことを言ってくれて、絶妙なツボをついて、やる気にさせてくれていた。観念的なところで、私のことをとてもよくわかってくれている人だった。

 

不思議なお洒落をしているゲイ寄りのバイセクシャルで、なんだかものすごくデリケートで包容力があり、心を開いて話をしすぎたところもあった。はまの君に話したようなことは、金輪際、話せる相手は現れないだろう。まあよく新宿二丁目のアイリッシュバーで、ゲスい話、しまくったよね。

 

遺影にじーっと見つめられながら、はまの君の部屋から何十冊か本を引き取ってきたけど、そのなかにマルクスブラザーズの本はなかった。渡すつもりで、どこかにしまってあったんだろうな。あんまり机いじくるのもなあと思ったから、見つけられないままだけど。どんな本だったんだろう。

 

 

はまの君は、BOOKMARCと、代官山蔦屋書店に死ぬほどケチをつけまくっていた。

「あれがこれからの主流なんだろうけど、あんなにクソつまらない本屋はない。あそこには、本を愛する店員が一人もおらん。客も店員も、誰も本に興味がない」

いつも憤慨していた。

BOOKMARCには特にやたらとこだわって、あれこれ文句つけてたんだよね。それだけ気になってたんだな。

マークジェイコブスの華麗なるゲイ人生についても、やけに真面目に論じてて、吹き出しそうなぐらい面白かった。

 

共同でやっていた絶版本専門のオンライン古書店は、「店主急逝」のあいさつを書いて、閉店した。いろんな人から、続けたらと言われたけど、ひとりじゃ古書会館の競りに行けないし。

 

私にとって、不世出の相棒だ。

そっちで楽しくやってるんかいね。

 

死ぬ前の日は、永井荷風読みながら、ジルベルト聞いてたでしょ。知ってんのよ。

 

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